梅雨の間のつかの間の晴れの日、ある会合があって吉祥寺に赴きました。
 3時からだったので家を2時過ぎに自転車で出て、京王線の仙川駅横を通り抜けて杏林大学病院から都立三鷹高校横を通ってジブリミュージアム、井の頭公園を抜けるともう吉祥寺という、ゆっくりいっても30~40分の行程のランです。
気心の知れた仲間ばかりの会なので短パン+ポロシャツですので非常に快適でした。その井の頭公園を抜けたら左側からモウモウと煙が出ています。
「あれっ!“いせや”が開店したんだ」。
そうなんです。吉祥寺では知らない人はいないくらい有名な大きな焼き鳥屋さんです。お店の新築でしばらく休んでいました。6月4日に新規開店だったんですね。このお店、ボクの学生時代にはすでにありましたから、40年以上(だと思います)の歴史のある店で、旧店舗は2階建てで、焼き鳥の煙で真っ黒にくすんでおりました。

早めに会が終わったので、当然のこととしてご挨拶に伺います。先方のお店の方はボクのことなど知りませんから、こちらの一方的な思い込みで伺いました。
若い頃は徒党を組んで行ったものですが、われわれの大先輩の年代の方々はひとりで来られる方が多く、皆立ち飲みです。もちろんテーブルの席もあるのですが日本の焼き鳥文化を味わうにはやはり立ってやる方がベターでしょう。
新規開店の店の趣は、昔のママ。まったくレイアウトが同じなのです。2階以上にマンション用のビルが乗っかっているような感じでまったく違和感がありません。まず、そこが嬉しい。さらに焼き手のお兄さんもほとんど昔のママだし、美味しい大き目の串もいまどき1本80円也。ここも変わっていません。
ふつう、儲かってビルを建てて、店を新しくすると値段を上げるのが当たり前の世知辛い世の中ですし、それに慣れてしまっているボクには大げさではなく驚天動地の思いでした。お隣さんは見も知らぬ人なのですが、自然と昔の店の話などでいっぺんに仲良く会話が始まります。そのお隣さんとの一致した見解は、
「見事なものですなぁ。よくここまで昔のママに…」
というものでした。おそらく“いせや”の経営者の方は「建て直すのはこちらの都合、お客さんには店を休んで迷惑をかけたりしているし、そこにビルの値段を上乗せするなんてのはもってのほか」という素晴らしいフィロソフィーをお持ちの方と推察したものです。なかなか出来んことですな。すごく幸せな気持ちにならせていただきました。また、再度来ることは間違いないですね。

さて、その翌日。
台湾でお世話になった若き友人が東京に来たので築地を案内しました。築地は銀座に近いこともあって大体コースに入ることが多いのです。お約束は場内の市場を見て、場外で買い物、そしてお寿司を食すというのが通常です。この日もそうでした。
しかし、若さというのは凄い。腹いっぱいにお寿司を食べた後、さらにラーメンを食べたいというのです。ところが場外の新大橋通りに面した“井上”という名店のラーメン屋さんは1時を過ぎていたのでクローズしていましたので、その近くの煮込みと牛丼の老舗(80年以上営業していると聞きました)が空いていたのでそれにトライすることになったのです。
4人で動いていたのですがさすがに満腹だったので、1人前を頼もうということになりましたが、店の人はあからさまにいやな顔をし、4人前でないとだめだと言うのです。日本人はボクひとり。外国からのお客さんだからということを説明し納得して貰い、煮込み丼を出してもらいました。出す時もブチブチ言っていましたがもうひとりがちょっと味見を…ということで割り箸をとろうとしたら、ひったくって箸を取りかえしたのです。ひとりだからだめだというのです。
なんということでしょう。
説明を求めたら「店の方針だ」とか「忙しい時にそんなことをやられては困る」というのです。でも、築地の1時、それも平日は全然混んでもいません。そして最後には捨て台詞のように「あんたたちみたいなのは来てもらわなくてもいいんだ」というようなことまで言われたのです。
お店の方ももうすぐ閉店ということで疲れていたのだと思います。だからそんな言動になったのでしょう。でも、台湾の友人に対して悲しい、寂しい思いをさせてしまいボクは恥ずかしさを覚えました。そして、あやまりました。彼らは「気にしないで、大丈夫ですよ」と言ってくれましたが…。
さすがに、もう二度とこの店には絶対行かない、と決めました。

長く続くお店にもいろいろなあるものです。
今回は食の、嬉しい話と悲しい話でした。次回も“なんトラ”をよろしく。