5月25日、上野の森美術館の“最後のマンガ展”を拝見させていただきました。
墨一色の濃淡で、現在の心情を余すところなく顕わした井上ワールドにどっぷりとつからせてもらいました。ある個所では墨痕鮮やかに「これでもかっ!」という迫力で迫ったかと思えば、他では淡いタッチで見る者を沈思黙考の世界に引き摺り込みます。
スラムダンクが終わってしばらくたったころのことですから大分前のことですが、次は宮本武蔵を題材にという話しをしたことがありました。
その時、ボクはすぐに手元にあった吉川英治氏の著書を紐解きました。新聞の連載で好評を博したものの書籍化だったので、なんだか“おつう”と“武蔵”が本当に都合よく離れたり、会ったり、の連続の内容だったので「どのように纏めるんだろう?」ということばかりが気になったことを思い出しました。
前回読んだのは高校生になったばかりのころですから、40数年はったっていました。その後「バガボンド」の連載が始まってみると「え~っ」、とか、「へぇ~こう来るの?」という連続で毎回びっくりさせられました。
まったく漫画家の頭の中はどうなっているんだろう、とまたまた思わされたものです。
人間、生きていれば必ずやパブリックな部分と、プライベートな部分があるわけですが、前者の仕事の部分での成長とファミリアな部分での充実がこの“最後のマンガ展”にはしっかりと現れていると見てとったのはボクだけでないと思います。
そして“スラムダンク”の最後の頃からの一シーンの書き込みの度合いは“バガボンド”になってさらにエスカレートしていって、絵画の趣きさえ感じさせられるようになりました。井上さんの日常の仕事振りを聞くにつけ、これは「時間がかかるはずだ」と納得させられました。
あっているかどうかはわかりませんが、ペンで顕わす細密から、墨で表現するという簡略に至る間(ま)にはかなり哲学的な思考も加わったものとおもいます。
井上さんの人生設計のなかにある夢をも、経過として見させてくれる展覧会だったと思いました。
4月の末にアメリカから共通の友人が5月上旬に来ることになったので時間が取れるかどうか電話をしました。ですが「まだ、マンガ展の方が全然手をつけていないので…」ということで合えませんでした。
内覧会当日の挨拶の中で「24日の朝まで描いていました」と苦笑しながら語っていたので、凄まじさとともに、ぎりぎりまで良いものをという“あがき”を知らされて、彼でも、と変な意味でホッとしたものです。
20数年前、ボストン美術館で見た日本から流出した江戸時代の20以上あるもの凄い迫力の龍の壁画に重ね合わせて“最後のマンガ展”を見ていた島本でした。井上ファンならずとも、要チェック、必見でしょう。
それでは、またまた次回の“なんトラ”までSEE YOU!