ボクが毎月定期的に原稿を書いているのはそんなに多くないのですが、先日、その中の一本で本当に面白い経験をさせてもらいました。
仕事柄、全国各地での取材や、bjの大分ヒートデビルズの顧問的なものをやっていますし、ファイブスターキャンプでもあちらこちらを飛び回っているので、そこかしこでいろいろな質問や相談をされることが多々あります。
軽いものから重いものまで、その時そのときで違いますがどんな時にでも出来るだけお会いしてお答えすることにしています。しかしそれも限度があるので月刊バスケットボールにはわがままを言ってQ&Aというページを作ってもらうようにして10年以上になります。
ハガキやお手紙、最近はメールでの質問・相談が増えてきました。たとえ内容がダブろうとも、以前にお答えしたなどというものでも時は流れていますし、状況が変わっていることもあるので書くことにしています。
冒頭に書いた面白い経験というのは、
「世界的見地から見て身長の高い、身体の大きな民族というのはあるんですか?」
というものでした。いままでこの手の質問はまずなかったし、あっても「誰が一番背が高いのか?」というごく単純なものばかりでした。ですから、世界を視野においた見方で答えたことはなかったのです。
TVであれば番組の中での談話ですみますから、頭の中に浮かんできたことを言えばよいのですが、書くという作業が加わるとひとつひとつすべてに根拠がなければいけないので、いちいち文献を調べたり、その道に詳しい方に当たらねばなりませんから膨大な時間がかかります。
今回はそんなケースでした。でも、ボク自身も以前、同じような疑問を抱いたことがあったので昔の取材ノートを引っ掻き回してさがしました。そして書き上げたのです。その取材ノートの日付は20数年前のもので、取材はしたもののボツにしたものでした。
ボツにした理由は今でもはっきり覚えています。
これを記事にしたら日本の若きプレイヤーたちの夢を壊すに違いない、とその時は感じたからでした。
人種や民族的なものなどを研究する学術分野には人類学というものがありますが、身長や身体の大きさという面を研究していた人類学の大学教授に取材したものでした。その先生にいろいろなお話を聞いた後、気になっていたことを最後に質問しました。
「先生が研究されたものをベースに考えて、日本人はバスケットボールに向いているか、向いていないかどちらでしょう?」
そのとき、先生はあっさりと、
「絶対にとは言えませんが、日本人はモンゴロイド系で世界的に見ても身長の低い部類に属する人類ですので、ゴールが305cmという高い所にある競技特性からいったら、かなり不利、ゆえに向いているとは言い難いですね」
というものでした。
ちょうど部数も角度は少ないものの漸増でしたし、なにもそのムーブメントに水を指すことはないと感じてボツにしたのでした。
しかし、それから20数年、世の中は大きく変わりました。テクノロジーの発達に伴い、FAXが生まれてきたし、ワープロなどというものも(現在は消えてしまいましたね)一世を風靡しました。さらにパソコンが出回ってからはインターネットが世界を席捲、eメールの出現で世界はどんどん近くそして狭くなって行ったわけです。
バスケットボールの世界も、NBAにブルガリアのゲオルギ・グシュコフというプレイヤーが1986年にフェニックス・サンズに最初に入って以来、もの凄い勢いでアメリカ以外の国で生まれ育ったプレイヤーがふえています。それはNBA好きの皆さんも実感されていると思います。
ちなみに背の高い民族というか人種が多く出てくるのは、北欧からオランダ近辺、そしてバルト海沿岸諸国、旧ユーゴスラビア(スロベニア、クロアチア、セルビア・モンテネグロ)近辺、中央アフリカ近辺、中国北東部、南米のアルゼンチンあたり、ということでした。
現在のアメリカを除いた強豪国の分布とピッタリ一致しています。
アメリカは移民の国ですからこれらのすべてから集まっており、特に黒人プレイヤーは奴隷として連れてこられた中で身体の強いDNAを持って生き抜いた子孫と考えてよいと思うのです。
身体の小さな日本人がこんな中で生き抜いて行くのは大変なことですが、田臥君の例もあります。20数年前とはまるっきり違う世になっている現在。もう、夢が壊れるなどという心配は必要ないと思ったのです。だから書きました
それより、ふた昔以上前に取材したメモが復活そして再生したことに感動を憶えた自分がいるのを発見できたことが、面白く愉快でした。
教訓! やはり取材はこまめに足で稼がなければいけない。ということですね。もし、もう少し詳しくと思われる方は現在書店に並んでいる月刊バスケットボールの10月号のQ&Aを読んでくださいませ。
それでは次回のなんトラまSEEYA!