バスケットの先進国・アメリカはいつ行っても大きな刺激をあたえてくれます。もちろん取材の主目的はオールスターだの、プレイオフだのとありますが、全米どこに行ってもそこの土地の空気を吸っているだけで、また日常の行動をしているだけで、いろいろとバスケットボールを感じさせてくれ、さまざまなアイディアを提供してくれます。
 そんな生活の中にある一断片を雑誌の編集に生かして行くのですが、日本には絶対出てこない、つまり生まれてこないタイプのものがあることを時々感じることがあります。分かりにくいかもしれませんが、そこらが国民性の違いかもしれません。そんなもののひとつが私にとって3ON3 バスケットボールでした。見る、応援する文化に対してする文化が3ON3でしょう。
 日常の生活に使用する道路や駐車場を使って半面のコートをつくり、そこで3対3のバスケットのプレイを展開するのですが、レフリーは一応いるものの、ファウルは自己申告。先に21点をとった方が勝利するというものでした。これでさえも、全米どこにでも見られるプレイグラウンドでの遊びのバスケットボールが進化したものでした。
 アメリカの中西部のミシガン、イリノイ、オハイオ、インディアナ辺りで自然発生的に生まれたグラス・ルーツ(草の根)イベントなのです。ごく手軽に楽しめるというバスケットの遊びですが、なかでもNO.1の規模を持つHOOP-IT-UPという大会を取材に行った時の驚きは新鮮でした。土、日曜日のダウンタウンのストリートに何百という簡易ボードを立てて、老若男女、千人以上の人がプレイしているのです。正に、国民総バスケットボールという感じ。感激しました。
 その時、素朴な疑問として出てきたのが、ごく簡単にチョークでラインを引いてあったり、道路には傾斜があることでした。大会のディレクターに聞きました。
 「チョークのラインやこんな傾斜は選手から文句は出ないのですか?」という質問をしたら、不思議そうな顔をして、「対戦する両チームは一応ラインを確認するだろうし、消えたらまたラインを引きなおせばいい。斜めでも1回1回ボールの所持が変わって、オフェンス、ディフェンスともにやることになるからどちらかのチームに優位に働くことはないしイーブン(公平)でしょ。だからぜんぜん問題はないよ」という答えが返って来ました。
 確かにその通り。ここらあたりの大らかさが、教育の一環からバスケットボールが発展して来た日本には、ない形でした。もちろん出場チームには勝つことを第一の目標にするチームもありますが、大半はバスケットボールという遊びで身体を動かし日常生活のストレスの発散や交歓を目的としているようで和気藹々としたものでした。
 冒頭にも書きましたがアメリカのバスケットボールの世界には本当によい仕組みがあります。そんな仕組みが何故日本にはないのかが許せなかった私は研究してみようと、現江戸川大教授の北原さんが第一勧銀のコーチをしている時にチームの皆さんにルールを説明してやってもらったのが始まりでした。そしてすぐ後スポーツマンシップ提供のHOOP-IT-UPが日本でスタートしたのです。1990年代の初頭でした。
 それから約四半世紀、FIBAが音頭をとって3ON3ならぬ3X3(スリー・バイ・スリー)の世界大会が始まりました。結果は報道記事に委ねるとしても世界中のバスケ好きが喜んでくれればこの上ないことです。発展を祈ります。

さて、ここでひとつお知らせです。
 EU Film Days 2013という催しが5月31日から東京・イタリア文化会館で始まります。日本とEUの市民交流の活性化を映画で図るのを目的としたものですが、この中にバルト3国のラトビアから“ドリームチーム1935”(2012)という映画が上映されます。アメリカ発でのバスケ映画は珍しくありませんが、さらにバルト3国といってもリトアニアではなくラトビアです。
内容は1935年、ジュネーヴでの第1回ヨーロッパ選手権でバスケット自体をあまり知らないラトビアが、さまざまな困難を乗り越えて優勝し、期待されていなかった小国が世界を驚かせるまでの道のりを描いた物語です(120分)。
まず、これまでラトビアの映画を日本人が見ることはなかったでしょう。入ってこなかったからですが、良い機会です。ぜひ、バスケを通じてラトビアを研究しましょう。
上映日時:6月10日(月)19:00~、15日(土)17:00~ 東京・イタリア文化会館
     6月30日(日)14:00~ 岡山・美術館ホール
     7月 6日(土)10:00~ 佐賀・エスプラッソホール
金  額 500円

 それでは次号の“なんトラ”までごきげんよう。