もうかれこれ15年ほど前のことでしょうか。
 叔母が品川の中延で陶芸のギャラリーをやっておりました。うちの奥さんが週に1、2回お手伝いに行っていた縁で、個展のオープニング・パーティーによく顔を出したものです。当時は月刊バスケの編集長をやっておりましたので、人と会うといえばバスケかスポーツ関係の方ばかりでしたので変化を求めていたのかもしれません。
 体育会系の雑ぱくな人たちと合うのも楽しいのですが、アートに携わっておられる方々はやはり一味違うものをもっておりました。そこに魅かれたのかもしれません。スポーツとアートは対極に位置するものと思っておりましたので、バランスをとりたかったのと、雑誌の中には写真はあるし、ページレイアウト、色の配列、全体のディレクションなどがあるので美的感覚を養う意味もありました。
 そこでお会いしたのが、和服の端布(はぎれ)を使用して小さな動物のぬいぐるみを創る作家さんでした。その方といろいろお話しているうちに、作品の経歴に押す落款(印)の気に入ったのがなくて困っているというお話になりました。ちょうど下手の横好きで遊印(遊び感覚の簡単な石印)を彫っていましたので「もし、気に入らなかったら捨ててください」ということでプレゼントしました。
 兎が大好きな方だったので、シルエットで兎をあしらい苗字も一字をほったものでした。意外にも大喜びしてくださり、こちらも嬉しかったものです。何にせよお世辞でも人が喜んでくれたのですからね。
 1週間ほど後、小さな細長い小包が我が家に届きました。なかには丁重な礼状に絣(かすり)の手作りの細い“和”と刺繍された袋に入った素敵な箸が入っていました。礼状の最後には“MY箸の会会長”と記されていました。「自分ひとりで会を作って気に入った方に押し付けがましく箸を贈っています、ごめんなさい」と書いてありました。
 しかし、是非使えとか、資源の無駄をなくそうとか、押し付けがましことは一切なかったのです。人からやれとか、理屈で上から押さえつけられると猛然と反発する性格のボクですが、そのときは実に素直に「使ってみよっと」てな感じで使用し始めました。
 ボクと一緒に食事をしたりする人は必ず「へ~ェ、MY箸ですか」とビックリするようですが、こんな感じでスタートしたのですよ。
 居酒屋でも、蕎麦屋でも、中華でも割り箸を使っているところでは必ず使用します。もちろん、仕事でお弁当が出る場合も使います。消極的な考えですが「ひとりでも割り箸を使わなければ、誰かが使うだろうから、長くやっていれば、塵も積もればなんとやらだな」などと考えています。
 絶対に押しつけたことはありません。でも、嬉しいことに高田馬場の中華の名店“揚子江”はすべて割り箸を使わなくなりましたし、若き友人のひとりは久し振りにあったらMY箸派になっていました。
 CO2の排出抑制にも何にもならんとは思いますがこれからも使い続けるボクがいることは間違いありません。ちなみに、外国への取材旅行でも必ず携帯していっています。

 それでは次回の“なんトラ”まで、SEE YOU!