現在、その選挙運動の期間の長さと過酷さから“アメリカン・マラソン”と言われる大統領選挙の話題でもちきりのアメリカです。この大統領選の前にはあのオリンピックでさえも影が薄いといえます。
民主党は元大統領のビル・クリントン夫人のヒラリー氏との壮絶な候補指名争いに勝利したケニア出身の父とカンザス州出身の母を持つバラク・オバマ氏は、アメリカ大統領選初の黒人候補ということは皆さんもご存知のことと思います。
 彼がここまで上ってくるまでには民主党内の政治勢力だけでなく、389年のアメリカの歴史にも挑んで勝たなければならなかったのですから大変です。389年というのはアフリカ人が最初に奴隷として、ヴァージニアのジェームスタウンに連れてこられたのが1619年だからです。それ以来、独立戦争、南北戦争、公民権運動などで人種問題がアメリカ史のなかの大きな争点だったからです。
 アフリカン・アメリカンは音楽やスポーツの世界での優秀性を示して来はしたものの、ビジネスや政治ではなかなか認められるところまではいっていません。そこでオバマ氏の出現です。だからアメリカ人にとって、多くの言葉が必要ない位のもの凄いインパクトであることは間違いありません。
 
 6月3日、大統領候補指名を確実にしたオバマ氏と奥さんのミシェルさんの、大歓声の中のステージ上で抱き合うという映像を見ました。その時、ミシェルさんは握りこぶしを肩の前に上げると、つられるようにオバマ氏もこぶしを作り、軽くぶつけました。
 ボクにとってはアメリカでは日常生活の中でも良く見ていたし、バスケットでもベースボールでも、どんなスポーツでもスーパープレイや得点の時にげんこつをぶつけて喜ぶのは日常茶飯のことでしたから、当たり前のように見ていました。
しかし政治の世界では違ったんですね。初めてのことだったようで大きな話題を呼んだようでした。
 ミシェルさんはTVで「フィスト・バンプ(こぶしの衝突)で讃え合わなきゃ。これは新しいハイファイブですよ」と説明していました。互いの手のひらを合わせるハイファイブはハイタッチと言われ日本でも一般的になっているほどですが(アメリカではハイタッチと言っても通じません)、それと同じと言おうとしたようです。でも、フィスト・バンプはまだ一般人には認知されていないので、特定の人種や年齢、階級を連想させ、とくに都会の黒人の若者文化と結びつくようです。そこが話題になったのでしょう。
 オバマ夫妻に黒人らしさや若さを捉えて好感を覚えたり、反発を感じたりした人もいたと思います。2人の一体感と高揚感が一瞬のムーブをかもし出したのでしょうね。
この行動を人前でしたことによって、新しいタイプの候補として全米に認知されたと言っても過言ではありません。アメリカでは大統領候補とその奥さんが表した斬新なメッセージは常に話題となるからです。
 
その後、さらに候補受諾のスピーチのミシェル夫人とお兄さんのクレイグ・ロビンソン氏のエピソードも心温まるものだったようです。貧困の中でも厳格なしつけを徹底していた家庭にあって、バスケットボールの有名な選手だったクレイグ氏は、妹ミシェルが交際していた「バラク・オバマ」という男が信用できるかどうかを、バスケットでワンオンワンをして「試した」というような話は共感を呼び、等身大の人物像を聴衆に実感させる効果があったと思います。

 さて一方の共和党の候補マケイン氏は、民主党大会の翌日に、オバマ旋風を吹き飛ばすかのように全米に「サプライズ」を巻き起こしました。副大統領候補として、44歳の現職女性知事、アラスカ州のサラ・ペイリン知事を指名したのです。噂されていたリッジ前国土保安長官でも、ポウレンティ・ミネソタ州知事でもなく、また女性候補なら彼女といわれていた、カーリー・フィオリーナ前HP(ヒューレット・パッカード社)会長でもなく、ほとんど政界もメディアもノーマークの人選は、一気にニュースメディアのトップを奪ったのです。
 このペイリン知事、とにかく異色の政治家で話題性は十分です。アラスカ育ちのアウトドア派で、ご主人は原住民イヌイット(エスキモー)の血を引く漁師です。それだけでも十分ユニークなのに、高校時代はバスケットの花形選手で、準ミス・アラスカに選ばれて奨学金を獲得して大学に進学、その後はTVジャーナリストを経て政界入りした44歳の女性ということですから大変なものがあります。息子さんは軍人でイラクに派遣されているということですから、マケイン候補と良いコンビだと言えるでしょう。もちろん、そこには女性候補を据えてヒラリー支持票を囲い込みたいという思惑も見えます。

 オバマ、マケインどちらをアメリカ人が選ぶのか分かりません。しかし、そのまわりをとり囲む人たちのなかにスポーツをバスケを大事にする人がいるというだけで、ボクにとって何か嬉しい感じがする今回の大統領選です。

 それでは次回の“なんトラ”まで、SEE YOU!